「きゃっ」
トイレでいつものように歩はイジメられていた。
投げ付けられたトイレットペーパーが顔面に当たる。
予想以上の痛い――。
「『きゃっ』とか言っちゃってキモいんだよ!!」
「顔が少しいいからって調子づいちゃって」
イジメッ子の真山(マヤマ)と佐々田(ササダ)が頭ごなしに言い放つ。
なんて勝手な言い草だ?なんて思ったが口に出せばもっとひどい目に合うに決まってる。
だから言わなかった。
するとイジメッ子の高橋(タカハシ)が割り込む。
「って言うか友達居ないんでしょ?家族も居ないって聞いたし。バイト先で住み込みだって噂ぁ。かわいそうよね」
嫌みのように言いつけた上、フッと鼻で笑う。
絶対この言い方だと“かわいそう”なんて思ってない。
しかも“かわいそう”と思われることは、時に人を深く傷つける。
今の歩の場合は傷ついたパターンだ。
歩は静かに口を開けた。
「何が?何がいけないの?何であたしがイジメられなきゃいけないの?」
歩は下を向きながらトイレットペーパーが当たり、赤くなった頬を擦りながら言った。
「何であたしに関わるの?キモいんだったら、絡まなければいいじゃない!!!」
下を向いていると、涙が流れる感触がした。
いつもいつも泣いてしまう。
嫌だけど、泣きたくないけど……。
涙が出てしまうのだ。
「だって真山さん達だってあなた達の親や兄弟が死んでしまったらなぐさめ合うでしょ?!あたしの気持ち知らないくせに!!」
……勝手なことばっか、言わないで。
人の気も知らないで。
歩は下唇を噛み締める。
この人たちはきっと傷つくことを知らないんだ。
真山は図星だった。
この女は相当な負けず嫌いだ。
相手が正しいことを言うとキレる。
自分の負けを認めたくない。
いわゆる“短気”な性格だ。
「はぁ、気持ち?……意味わかんないし!ふざけないでよ!!!」
と叫びながら歩にビンタを食らわそうとした。
「や……」
歩はビクッと身体を震わせた。
キーンコーンカーンコーン
タイミングよくチャイムが鳴り響いた。
真山は舌打ちをし『くそ、いいとこだったのに』と囁いた。
真山は途中で止めた。
『助かった……のかな?』
とホッとした。
真山達はムッとした顔をして、
「後でたっぷりイジメてあげるんだからね!」
と言い放ち、トイレから出ていった。
歩も行かないといけないのだが身体が上手く動かない。
腰が抜けたようだ。
涙がスウッと流れる。
身体が痛いけど、痛いからじゃない。
悔しいくて、ツラいからだ。
毎日毎日ツラくて、悔しくて、怖かった。