幼なじみは俺様王子。





あたしの表情を見て、あーちゃんは心配そうにあたしの顔を覗き込んだ。


「……なんかあった?」


「あのね……。あたし、楓と付き合ってるのか分からないんだ……」


すると、あーちゃんは首を傾げ

「どういうこと?」

と、あたしに尋ねた。


「付き合うとか、そういう話はしてないの。ただ好きって言ってくれただけ……」


「そんなの関係ないわよ?」


あーちゃんがあたしの言葉を遮った。


「あたしだってそうよ。好きって言ったら俺もって言ってくれただけよ?それでもあたし達は付き合ってるんだって思ってる」


あーちゃん……。


「あたしは湊斗を信じてるから」


あーちゃんの言葉は心にジーンときた。


「だから、穂香も王子を信じなきゃ。ねっ?」


「あーちゃん……ありがとう」


あたしがそう言うとあーちゃんは、満足そうにニッコリと笑って


「それでこそ穂香よっ!」


あたしの両肩を両手でポンポンとたたいた。









「……あぁああああっ!」

「ヒッ……!」


あーちゃんがいきなり大声で叫んだ。



「今度の週末、花火大会があるじゃない?」


花火大会……?

あっ、そういえば。


ここに来る途中、ポスターが貼ってあったっけ。


「それがどうかしたの?」


するとあーちゃんは目をキラキラと輝かせて、あたしの両手を握った。


「なに言ってるのよっ!
その日は4人で行くのよ、お祭り!」


よ、4人…?

あたしとあーちゃんと……


「あと2人は……誰?」


「湊斗と王子に決まってるでしょう!」


うえぇええええっ!


瀬川クンはともかく、楓まで!?


「当たり前じゃない。それじゃなきゃダブルデートにならないでしょーが」


普通に、心よんでるし。


まぁ確かに瀬川クンと、あーちゃんとあたしの3人じゃあたしはお邪魔だけどさ。


だからって楓まで一緒に行くの!?









「その時は浴衣着て行かなきゃあ」


むふふ……なんて不気味な笑みをこぼすあーちゃん。


はぁ、とため息をつきながらあーちゃんを見つめるあたしも、実は楽しみだったりする。


「ねぇ、穂香も行くでしょ!?」


あーちゃんは物凄い勢いであたしに突っかかってきた。


「う、うん。行く」


「じゃ、決定!詳しいことはまた話そっ!」


あーちゃんはこれから瀬川クンとデートらしい。


「わかった!じゃ、またね!」


あたし達はカフェを出て手を振って別れた。


帰り道、あたしはバックを腕に抱いて、ゆっくりと歩いていた。


あーちゃんがデートだなんて


考えてもみなかったな。


そんなあーちゃんはとても新鮮で。


自分のことでもないのになぜか胸がドキドキした。


あーちゃんと瀬川クン、なんか意外なコンビだけど、

お似合いなんだろうな、きっと。


あーちゃんと瀬川クンを想像しながら、あたしは笑みをこぼした。









数日後。

あれから楓に花火大会のことを話したら、楓は笑顔で“YES”の答えを出してくれた。


楓との初デート。


考えるだけで胸が躍った。


――そして今日は花火大会当日。


待ち合わせは夕方6時だ。


もうそろそろ準備しようかな……。


時計が4時を指したところで、あたしは一息をつき準備を始めた。



「うっ……」


胸まである栗色の髪 をアップにして、メイクも今日は少し派手目にした。

雑誌を見て、一生懸命研究したメイク。

なんとか上手く出来た……かな?


でも、問題はこの浴衣。


旅行の時も思ったけれどあたしにはどうも浴衣という代物は似合わないらしい。


黒地にピンク色の桜がついた可愛らしい浴衣。

帯は濃いピンク色。


レースが袖や首元についていて、本当に可愛いい。


お父さん達がハワイから送ってくれた仕送りで奮発して買ったものだ。


だけど……

に、似合わないかも。


……はぁあああああ。


鏡で見る、自分の浴衣姿にため息がでる。


あーちゃんは美人だから浴衣とか似合うんだろうなぁ……


あーちゃんの浴衣姿を想像して、一気にあたしのボルテージが下がった。









「……こんなこと考えてても、仕方ないか」


あたしは慣れない下駄を履いて、蒸し暑い夏の外に

カラダを放った。



楓は、瀬川クンと一緒に買い出しに行くから先に行っててと言われた。


花火の場所取りもしてくれているらしい。


そうゆう楓の何気ない優しさが好き。


そんなことを思いながらあたしはあーちゃんの家に向かった。


――ピンポーン


インターホンを鳴らすと

「はーい」

と、あーちゃんの甲高い声が聞こえた。


あーちゃんはどんな浴衣着てるのかな……。


――ガチャッ


あーちゃんの姿を見てあたしは言葉を失った。


白地に紫色の紫陽花がついた

なんとも大人っぽい浴衣。


帯は濃い紫色で。


ショートボブの髪には、可愛い髪飾りがついている。


「湊斗のために、頑張っちゃった」


えへへと笑うあーちゃんは女のあたしでも見とれるくらい綺麗で


あたしはただ呆然と立ち尽くしていた。


「……ちょっと穂香、大丈夫?」


あーちゃんの声で我に返ったあたし。


あーちゃんが綺麗すぎて言葉失っちゃったよぉおおおお。








はぁああああ。


あーちゃんと比べたら、あたしなんて月とスッポンだよぉ……。


「穂香、可愛い~」


それでもあーちゃんは「桜の花が穂香らしいね」って笑ってくれた。


「さっ、行こ!湊斗と王子はもう向こうで待ってるし」


「そうだねっ!」


あたし達は花火大会の開催される神社へと向かった。



「……うっわ~。すごい人」


あたし達が神社についた頃には、すでに薄暗くなっていた。


しかもすごい人だかり。


「これじゃ、楓達見つけられないかも」…」


この人だかりで見つけるのはさすがに無謀過ぎる。


するとあーちゃんは可愛らしい巾着から携帯を取り出した。


「湊斗に電話かけてみるね?」


携帯を耳に当てて、瀬川クンの応答を待つあーちゃん。


「あ、もしもし湊斗?」


瀬川クンと話すあーちゃんはどこか“乙女”だった。


そんな新鮮なあーちゃんを微笑ましく思う。


「そう、分かった。じゃそっちに向かうね!」


ばいばいと電話を切ったあーちゃんはあたしに視線をずらした。









「かき氷の屋台の近くにいるって!」


「それなら、行ってみよっか」


あたし達はかき氷の屋台へと足を速めた。


「亜沙子」


屋台の近くを見回していると、楓とは違う低い声があーちゃんを呼んだ。


不意に、あーちゃんを見ると顔がほのかに赤くなっている。


するとあーちゃんはあたしにこっそり耳打ちした。


「湊斗の甚平姿カッコいいでしょ?」


自慢、と言わんばかりにあーちゃんは瀬川クンの元へ駆け寄った。


確かに、学校で騒がれているだけあってカッコいい。


楓には負けるけど……なんちゃって。



あれ、そういえば楓は?


周りを見渡しても、楓の姿はどこにも見えない。


あたしを見て察したのか瀬川クンが言った。


「楓なら、かき氷買いに行ってるよ?」


えっ……かき氷?


かき氷の屋台の方を見ると、楓は4個のかき氷を持って戻ってきた。


「穂香」


あたしの名前を呼んで、楓はふわりと微笑んだ。


「……浴衣、可愛いよ」


――そんな甘い言葉を囁いて。









楓は、ズルい。


いつだってそう、あたしをドキドキさせる。


――そんなこといわれたら、あたし舞い上がっちゃうよ……。


楓の甚平姿はあたしをドキドキさせた。


あたしが髪を整えてる間に、家から出て行ったから分からなかった。


黒のストライプの甚平。


“カッコいいよ”

そう言いたかったけど、なぜか言えなかった。


だけど学校とは違う、楓の甚平姿をみんなに見られてると思うと、なんだかモヤモヤした。


……これは多分、ヤキモチ。


「4人揃ったことだし、食うか」


瀬川クンの言葉を合図にあたし達は準備を始めた。



レジャーシートの席は、言うまでもなく瀬川クンの隣はあーちゃんが確保。


……と、なると。

あたしは自然と楓の隣に座ることになる。


……でも、堂々と座れる?


普通なら何気に座れるんだろうけど、根性なしのあたしは言うまでもなく座れない。


そんな自分が時々嫌になる。









どうしていいのかわからなくて、立ち尽くしていたあたし。


すると突然、ぐいっと手首を引っ張られた。


「……ひゃあ!」


な、なに……?


ふと、隣を見ると楓がいて。


「お前の席は、もちろんココだろ?」


そう言って挑発的な笑みを浮かべあたしの耳元で囁いた。


ひゃあああああ……


じ、寿命縮まるって……。


でも、嬉しくて。

とても嬉しくて。


楓はあたしを認めてくれてるんだなって実感したんだ。


そんなあたし達のやり取りを見て、あーちゃんはニヤニヤしながら


「あたし達、お邪魔みたいだから行くわねぇ~」


そう言うと瀬川クンの腕を引き、どこかに行ってしまった。


う、嘘……。


ふたりきりなんて。


あたしが口をポカンと開けて、あーちゃん達の背中を見つめていると、不意に肩を抱かれた。


「やっとふたりきりになれたな?」


やっとって。


それって素直に喜んでいいのかなぁ……。

これじゃ、ダブルデートの意味がないような気がするけど……

まあ、そこは置いておこう。


すると突然、楓は立ち上がり


「花火、見に行くか」


そう言って、あたしの腕を引きながらスタスタと歩き出した。