幼なじみは俺様王子。





楓クンは親指であたしの涙を拭ってくれた。


すると楓クンは、何やら小さな箱を取り出して

「これ、やるよ」

あたしに差し出した。


「……これは?」


ピンク色のリボンでキレイに包装されたハート型の箱。


「開けて?」


あたしは箱のリボンを丁寧にほどいて、箱を開けた。


「これ……」


そこに入っていたのは、


「俺からのプレゼントだ」


パッションピンクのストーンが引き積められた、ハート型のネックレス。


と、もう一つ。
ハートがいっぱいついたお守りが入っていた。


このお守り、今日行った神社にあったお守り……。


「それ、お揃いだぜ?」


楓クンは色違いの青い色のお守りを持っていた。


「どうして……」


「これってふたりお揃いで持ってると永遠に結ばれるってジンクスがあんだよ」


ジンクス……?


それを買うために、あの神社に?









胸がギュッと締めつけられた。


楓クン……そのためにあたしをここに連れてきてくれたんだね。


すると楓クンは、優しく笑った。

まるで“王子様”のように。


「ネックレス、つけてやるよ」


そう言うと小さな箱 からネックレスを取り出してあたしにつけてくれた。


あたしの首元に輝くキレイなネックレス。


単純に嬉しかった。


プレゼントもそうだけど楓クンの気持ちが。


誕生日を覚えていてくれて、プレゼントまで買ってくれて。



その気持ちが何よりも嬉しかった。


「お前、泣いてばっかだな?」


「だって楓クンが……」


「楓って呼べよ」


あたしの言葉を遮った、楓クン。


恥ずかしかったけど、勇気をふり絞った。


「楓……」


すると楓は驚くほどに優しく微笑んで


「よく出来ました」


あたしの頭を優しく撫でた。









「穂香…好きだよ」


楓はそういって甘いキスをくれた。


それは溶けちゃうくらい甘いキス……。


「あたしも、楓が好き……」


小さく囁いた声は楓に届いていた。


「もう、離さねぇよ?」


甘いセリフをくれる楓にあたしはすでに虜になっていて。

「離さないで……」


そんなことを口にしていた。


ヤバい、眠くなってきた。


睡魔に襲われたあたしはいつの間にか眠っていた。


「お前……可愛すぎ」


そう、楓が囁いた声は聞こえなかったけど

楓の腕の中でとってもいい夢を見ていた気がする。









『今日は今年始まって以来の真夏日となるでしょう』


テレビのお天気キャスターもいつの間にか涼しげな夏服に変わっていた。


今日は本当に暑い。


まぁ、もうすぐで7月も終わり。


8月になるんだもん、暑いのも当然か。


旅行もあっという間に終わり、もう夏休みが始まっていた。


旅行の次の日、学校に行って怪しまれるのは当然のことで……。


「あの二人付き合ってるのかな?」


「えぇっ!王子があの凡人と?」


「さすがにありえないでしょ」


……なんて騒ぎ立てられて、本当に最悪だった。


実際のところ、付き合ってるのかどうか分からない。


“付き合おう”なんて会話はしてないも同然……。


ただ“好き”って言われただけで。


でも、もし付き合っているとしても、あたし達はきっと“秘密の関係”になる。


だって、学校一の王子様である彼の彼女があたしだなんてバレたら、大変なことになるのが目に見えてるから。


「はぁあああ……」


本当、憂鬱だよぉお。









あたしは深いため息をついた。


楓は今日の夜ご飯の買い出しに行っている。


あたしも一緒に行きたかったけど、そのことを考えたら行けなかった。


もし、楓とふたりで歩いてるのクラスメイトに見られたりなんてしたら、きっと何を言われるか分からない。



バレてもいい、と自信をもって言い切れる程の容姿じゃないあたしは、楓の誘いに“NO”を出してしまった。


はぁああああ……


あたしがもっと可愛かったらよかったのに。


そしたら、楓に似合う女の子になれたのにな……。


そう考えると胸が苦しくなった。



――プルルルルル


そんなことを考えているといきなり、普段はあまり鳴ることのない家の電話が鳴った。


……誰だろう。

もしかして、楓かな?


楓だと思い込み、電話の受話器を取った。









瞬間、電話越しに聞こえる、とてつもなく大きな音楽に耳の鼓膜が破れそうになった。



「……も、もしもし」


戸惑いながらも、受話器に耳をあてるあたし。


すると、聞き慣れた声があたしの耳に届いた。


「穂香? 久しぶりぃ~」


「……お、お母さん!?」


その電話主は、なんとお母さんで。


あたしは言葉を失った。


そんなあたしとは裏腹にお母さんは話を続ける。


「あのねぇ穂香、実は話したいことがあるの」


「……………」


「ハワイで旅行を楽しんでいる時、ふと宝くじを買ったのよぉ。そしたらお母さん、一等当てちゃって……」


むふふ……と不気味な笑いをこぼすお母さん。


「それでね、こっちにマイホーム買っちゃったっ!」


「……え、えぇぇ!?」


やっと声の出たあたし、に待ち受けていたのはこんな衝撃の事実。


「ってことで、しばらくはお父さんと夫婦水入らずでこっちで暮らすことにしたからぁ~」



……な、ななな、何ですとぉおおお!?








「し、しばらくってどれくらい!?」


パニック状態をおこすあたしに対して、お母さんは脳天気な声で言った。


「う~ん。穂香の卒業式くらいまでには戻るかな?」


そ、卒業式って……

今、あたしは高2。


あと1年もあるじゃん!?


「そ、そんな…っ……」


“早く戻ってきてよ”そう言いたかったけど、言えなかった。



お母さん達が戻ってきてたら、楓との関係が終わっちゃうと思ったから。



「ああ~ら、いいじゃないの。
アナタには愛しの楓チャンがいるでしょう?」


愛しのって……。


そういう問題じゃないんですけど。


「な、何言って…」


「とにかく、お母さん忙しいから切るわよ。シーユー!」


お母さんはあたしの言葉を遮って一方的に電話を切った。


受話器から聞こえてくるのは虚しい機会音のみ。


し、シーユーって……









……ていうか。


どうしてマイホームなんて買うのよぉおおおお!


てか、そのくじ運のよさは一体なに!?


戸惑いもあるけどきっとあたしは嬉しさの方が大きいと思う。


だって楓と2年間もいられるんだもん。


嬉しすぎて思わず笑みがこぼれる。


すると後ろから整った顔に覗き込まれた。


「なにひとりでニヤニヤしてんだ?」


「……じょばっ!」


か、かか、楓っ!


もお、いきなり現れないでよぉ。


心臓に悪いって……。


「ぷっ。お前なんつー声出してんだよ」


あたしの反応がよっぽど面白かったのか、楓は腹を抱えて笑っている。


「……だってねっ!」


聞いてと言わんばかりにあたしは楓の両腕を掴んだ。



「ん?どうした?」


「お、お母さんがマイホーム! で、ハワイは宝くじ」


興奮のあまり、意味深な発言をしたあたし。


「……お母さんがマイホームって、どんなんだよそれ」


楓は呆れ顔であたしを見ている。


「順を追って話せ」


それからあたしは楓にきちんと説明した。
















「……なるほどな」


すると楓はあたしを見るなり、意地悪な笑みを浮かべた。


「で。お前は何でそんなに嬉しそうなんだ?」


「えっ……」


まさか、言えないよね。


「言ってみ?」


「か、楓と一緒、にいられる……から」


楓があたしの頬に優しく触りながら聞くもんだから、あたしは気づいたら口を開いていた。


それはもう無意識に。


すると楓はあたしをふわりと抱き寄せた。


瞬間、楓の甘い香りが、あたしの鼻をくすぐる。


「でも、俺にとっても好都合だな」


「……えっ?」


その理由はすでに理解出来ていた。


でも、楓の口から聞きたかったんだ。


「穂香と2年も一緒にいられるんだから」


そしてあたしに甘いキスをくれた。


この夏休み、

あたしと楓に待ち受けているものは

……これからのお楽しみ。