「それで、“このこと絶対言うなよ”って念を押すように言って、去って行った」


涙で濡れたあたしの目尻をハンカチで拭きながら、あーちゃんは続けた。


「王子は最初から知っていたのよ。穂香が王子のファンに呼び出されたこと」


「うっ……っ…」


あーちゃんは泣きじゃくるあたしを抱き締めて、クスッと笑った。


「“俺は穂香をずっと見守ってる。ひどいことになったら助けに行くつもりだ”って言ってた。北校舎の見える通路で、ずっと見てたのね、きっと」


胸の奥が疼いて、あたしは“楓がくれたもの”を見つめた。


それって……

楓は、ずっとあたしを見ていてくれたってこと……?


「でも、穂香から聞いた話だと、早川爽が先に助けちゃったみたいね」


「それってさ……」とあーちゃんは言うと、あたしの体を静かに離した。


「……王子、賭けてたんじゃないの?」


あーちゃんはあたしの顔を見つめながら、首を傾げた。


「賭けて、た……?」


あたしが聞き返すとあーちゃんはコクリと小さく頷いた。