ただ黙って爽を見つめることした出来なかった。


きっと、少しでも唇を動かしたら爽の唇と重なってしまうから……。


「抵抗しねぇの?」


そんなに近づかれたら、抵抗出来るわけがないじゃない……。


ずっと口を閉じているあたしを見て、爽はクスッと笑った。


「素直じゃねぇか」


その言葉を最後に、爽のキスが振ってくる。


「や…めっ…!」


爽の胸板を叩いても、唇を無理やり離そうとしても、


あたしの必死な抵抗は爽には通用しなかった。


あたし…なにやってんだろう……


楓とあんな風になっちゃったからって、爽とこんなことしちゃダメ……。


そう思っていても、心の奥底では甘えもあったのかもしれない。


爽と楓はよく似てる。


口調も、笑顔も、仕草も。


……キスの仕方も。


まるで楓の温もりを思い出させるかのような。


心地よくて、どこか安心する、甘い体温……。


あたしの中の悪魔は、爽を利用しようとしてる。


――楓と爽を、重ねてる。