――春が来て。


俺は親父の転勤で引っ越すことになった。


楓と遠く離れられて、やっと気楽に過ごせると思ったのに。


――アイツは、突然俺の前に現れたん。


廊下を歩いていた時、ふとすれ違った男。


無造作に整えられた茶髪。


悔しいくらい整った顔。


冷酷なその雰囲気で、すぐに楓だとわかった。




――夏祭りの夜。


俺はコンビニに寄った帰り道。


空にはドンドンと色鮮やかな花火が打ち上げられている。



神社を通り過ぎた時。


人気のない石段でふたつの影が揺れた。


そこにいたのは紛れもなく、楓…と見るからに凡人の女。


楓は幸せそうに笑っていた。


過去のことなんてなかったかのように。


隣にいた女は、きっと楓の言ってた幼なじみだ。


……ムカついた。


ふたりの仲を壊してやりたいと思った。


柚月の傷ついた気持ちを、楓にも味わせるために……。


……それで、穂香に近づいた。


最初は仲を壊すための計画だった。


ちょっと優しくすれば、女なんてホイホイついてくるもんだ。


この時の俺は、そう思ってた。