「…先輩」

「なぁに?」

彼女をぎゅっと強く抱き締めながら、耳元に口を寄せた。

「桜が満開になったら…またここで、キスしてくれます?」

「うっ…! まっ満開になったら、ね?」

「ええ、そうですね」

その時の天気は、晴れじゃなくていい。

今にも雪が降り出しそうな、曇り空であってほしい。

そして強い風がふいていれば、もっと良い。

白い花びらが雪と錯覚できるぐらいの、桜吹雪があれば、あの日と重なる。

ここでまたキスをすれば、また彼女との思い出が増える。

そう、春の雪に包まれながら―…。