「びっくりしたわねぇ、今の突風。春一番かしら?」

「ここは高い所ですから、風も強いんでしょう」

「そうね。…どうかした? 何か顔色悪いけど」

彼女が心配そうに、オレの顔を両手で包み込む。

その手に触れ、そのあたたかさにほっとする。

「いえ…。また先輩が消えてしまうんじゃないかと…ちょっと心配になったものですから」

「そっそれはないわよ! もう逃げる理由なんて、無いんだし」

「分かってはいるんですけどね」

オレは力なく笑う。

…実のところ、あの日のことは、ちょっとしたトラウマになっていた。

雪のように舞い散る花吹雪の中、彼女を見失ってしまったことが、今でも強く心に残っていた。

悲しい思いと共に―。

だから一緒にいる時も、時々不安になっていた。

彼女が急に消えてしまうような感覚が怖くて、いつも強く彼女を引き止めていた。

「…ゴメン。イヤな思いにさせちゃって」

「いえいえ。運命的な出会いでしたし?」

「運命にもいろんな感じ方があるの、忘れてたわ」

彼女は珍しく神妙な顔付きになった。

そして一度俯き、再び顔を上げた時には、何かを覚悟した表情をしていた。

オレの顔を包んだまま、背伸びをして…キスをしてきた。

「っ!?」

いや、キスやそれ以上のことはしたことあるけど、彼女からというのははじめてだった。

「…コレでイヤな思い出、吹っ飛んだでしょ?」

「ええ、いろんな意味で、吹っ飛びましたよ」

あの時の悲しい思い出が、一気にあたたかなものへと変わった。

彼女からキスしてきたという、甘い思い出に。