「う~ん。さすがにまだ満開まではいかないけど、コレはコレでキレイよね」

「そうですね。一斉に咲くのもキレイですけど、少しってのも良いもんですね」

彼女は駆け出し、あの木の下に立った。

そしてそっと、咲きかけの蕾に触れる。

「この分なら、あと10日ってとこかしら?」

「そしたらまた寄りましょうね」

「うん! もちろん!」

彼女が笑顔で、蕾をなでる。

その姿に、昨年の彼女の姿が重なって見えた。

―あの時、同じ学校の生徒だと分かっていても、消えてしまったことに、ひどく心が揺れ動いた。

きっとそう…あの感情は『悲しみ』。

喪失感から生まれた、負の感情。

彼女は本当に存在したのか?

もしかしたら、本当に幻だったのではなかったのか?

そんな考えが駆け巡ったから…。

思わず胸を押さえると、いきなり、あの時のように突風がふいた。

「きゃあっ…!?」

彼女は驚いて、蕾から手を離した。

乱れる黒髪で、彼女の顔が見えなくなってしまう。

オレは駆け出していた。

「先輩っ!」

突風から彼女を守るように、とっさに抱き締めていた。

消えないように、逃げないように。

強く、強く―!

…しばらくして、風はやんだ。

けれどオレは彼女から離れなかった。

「えっと…、風、やんだわよ?」

腕の中で、彼女が恐る恐る声をかけてきた。

「そう…ですね」

少し力を緩めると、彼女は顔を上げた。