夏休みと言えば、
年頃の女の子にとっては楽しくて仕方がないもの。
花火大会、夏祭り、海水浴、ドライブ、プール、キャンプ……
なにもかも“常夏のノリ”で友達と遊ぶ楽しい夏休みとなるだろう。
けれど、“夏休みは彼氏と過ごしたい”。
そんな願望を持った女が居た。
長女の里沙、次女の紗絵、三女の恵美。
―――町田三姉妹。
彼女たちの不満はこうだ。
“夏休みはどこに行ってもカップルばかりで、羨ましくてたまらない。”
“夏休みに向けた雑誌のカップル特集は無関係だ。”
だから「夏休みまでに彼氏が欲しい」と常々言ってきた。
去年の夏からかれこれ1年言ってきた。
その証拠に、いつ彼氏が出来ても良いようにムダ毛の処理も下着もきちんとしていた。
けれど彼氏はできなかった。
そこでようやく三姉妹は気付いた。
「まず、出会いがないんだよ!」
――――――と。
長女は「引っ込み思案で内気」
次女は「ゆるい軽い」
三女は「無邪気な子供」
そんな三姉妹の
「夏休みまでに彼氏を作る」という願望は、
しかし、明日から夏休みと言う今日なので不可能だ。
なので三姉妹は家族会議(母と子の4人で…)をし、共通の目標を立てた。
「夏休み中に“運命の出会い”を達成する!」
以上が、「去年の夏から出会いなんかなかった!」という三姉妹の復習。
―――これは町田家の母親と三人娘による“運命の出会い”の作り方のお話です。
わたし町田恵美。中学2年生。
受験生でもないし、新入生でもない学校に慣れた学年だから、
1番女子中生時代を満喫できると謳われる中2なのがわたし。
夏休みには彼氏とラブラブしたかったんだけど、わたし彼氏居ないから。
だってうちのクラス男子ろくなの居ないし、学年の男子もいまいちだし。
塾にもいい人居ないし。
本当ツイてないよ、出会いがないんだもん。
欲張りは言わないけど、どうせ付き合うならやっぱりカッコイイ人がいいな。
でもチャラチャラした人は嫌だな。
笑われるかもしれないけど、わたし初彼と結婚するのが夢なんだ。
だから将来性のある真面目で誠実で、頼りがいがある大人の――それでいて冗談の上手い人が理想なんだ。
もちろん、好きになったらそんな欲張りは言わないけど。
黒髪で眼鏡とか、キュンキュンしちゃう。それで犬を飼ってたら最高だな。
だって動物好きな人は家庭的なんだろうなって。
…妄想している場合じゃないね。
―――“運命の出会い”
絶対掴んでみせるんだ。
お姉ちゃんと約束したんだもん。
〓図書館に行きなさい〓
ママは言った。
だからわたしは本とか小説とか文系な嗜みに興味ないけど、図書館に行った。
ママが言うには、わたしのタイプの人(誠実で将来性があって真面目な―)は、
〓図書館に居るから〓なんだって。
本当かどうか分からないけど、わたしママとパパが理想だから、(夏休み暇だし)
言われた通りにすることにしたんだ。
だから〓朝の9時半からお昼の1時まで、とにかくいい男が居ないか探しなさい〓なんて言うから、
わたしさっきからもうずっとキョロキョロしてて、首も痛いし読書感想文の本も進まない。
ちょっと退屈だよ。
〓カウンター席に座ってなさい〓
勉強机みたいになってる席は背もたれがあるからそっちに座りたいのに、
ママが言うから、わたしカウンター席で我慢してる。
それに〓筆記用具は広げたらだめよ、ただ本を読んでなさい〓とか意地悪言うの。
だって感想文に使えそうな部分をメモしたり、感じたことの覚書もできないじゃない?
一瞬、ママはここに居ないから言い付けを破ってもバレないから
鞄の中にある筆記用具に手にしたけど、やめたんだ。
だって里沙お姉ちゃんと紗絵お姉ちゃんと約束したんだもん!
“カウンター席に座って、本を読むふりをしてキョロキョロといい人をさがす”
貴重な午前中をわたしは言われた通りに守ってた。
――もう27日だ。
なんだか毎日開館日に通うの疲れたよ。
だって良い人なんか居ないし、キョロキョロしたって図書館通いが日課のお年寄りと、
夏休みすることのない小学生ばっかりだもん。
いつも難しい顔して百科辞典広げてるおじいちゃんと会釈する仲になったんだからね。
午前中はダラダラしてたいってママに言ったら、
〓早起きして午前中を有効に使う男が良いのよ〓なんだって。
意味ワカンナイ。夏休みは昼まで寝たいよね。
そんな訳だから、わたし27日の今日も読書感想文は進まずにキョロキョロしてた。
暇過ぎるからウォークマン聴いてるのはママに秘密だよ。
どうせ今日も無駄な狩りだったねって、お姉ちゃんに笑われるんだろうな。
ため息混じりに今日何百回めかのキョロキョロを実行した。
本棚と本棚の隙間で本を選んでる人、受付にいる人、一人用の勉強机にいる人……
見渡したって何も変化なかったわ。
ママに遊ばれてるのかも、ママはもう50歳だから暇潰しにからかわれてるのかも。
そんなことを考えていたけど、ごめんなさいって思っちゃった。
だって入口からこっちに歩いてくる人―――
――――運命の王子様を見つけた!!