いよいよ花火大会という日。
「お仕事のあと花火大会に行きませんか?」
……
ぼんやり顔の娘たちに、
「意味が分かったか?」と尋ねれば、分からないと言う。
ああ、まったく。
「お父さんはお母さんやお前たちと同じだった。そういう話じゃないか」
にっこりと微笑んでやった。
懐かしい、今目の前にいる子供たちは性別は違えど何十年も前の自分た―――
恋に夢見るお姫様を前に王子様になれる。
「お父さんは呉服屋に通うような古風な彼女が欲しかった。だから着物屋に就職した部分もある。
日本男児という粋さをアピールしたくて和服姿でわざと出迎えた。
花火大会に誘われるように、仕事終わりは暇だとこぼし。
花火大会特有の相乗効果を狙って告白をされると同時に告白をした。
全部わざとだ。全部自分で作った。
でもお父さんそれを何も後悔しないし、お母さんを騙してるなんて悪かったなんて思わない」
どうして、と口を揃えて言う娘たち。
「だって好きになったんだ」
屁理屈を言うだなんて、なんだか“少年”のよう。
「運命だ。お母さんを店に呼び込んだのも運命だし、
わざと和服着たのも運命、なにもかも運命。
気付いたら運命だ、お父さんがお母さんを好きになったのも運命。
自然なんかない、いつも選択して生きているんだ、それは運命。
情けないな、お父さんの娘なのに知らないのか?
運命って便利な言葉だ。運命運命、なんでも片付けられる」
「お父さんって…」
「オトー…て…」
「パパって…」
怖い、そう口を揃える娘に失笑するしかない。
「お父さんは“出会って”からずっとお母さんが好きだぞ?」
夏休みと言えば、
やはり花火大会がメインイベントだろう。
なにもかも“夏の幻想”のようで、夜空の花火の下は美しい世界が広がる。
花火大会はまもなく佳境――
夏休みに彼氏が欲しいと意気込んだ町田三姉妹は、
――今頃告白をしているのだろう。
長女の里沙、次女の紗絵、三女の恵美。
―――町田三姉妹。
彼女たちの両親は、お互いが秘密を打ち明けることで、
三人娘が少し自信を持って花火会場に向かう姿にほっとした。
けれど母親も父親も、まさかお互いが“運命の人”と“運命の出会い”をしていたとは思いもしなかった。
結婚して30年がたとうとしている二人は花火の下、娘たちを思った。
夜空はキラキラ光り輝く。刹那に消える花火を心に焼き付けて――
「わたし平井くん好き」
「吉野がすき」
「すきです!関さん」
花火はキラキラ。
運命の出会いを果たして――夢の夏休み。
返事を待つ。
かき氷が溶けていく――
町田三姉妹の夏休みは
“運命の出会い”の勉強をして、人生で一番充実した夏となった。
ならば来年の夏休みは誰と過ごすのだろうか――?
夏休みで学んだことを短くまとめる。
「自分で運命を作るくらい愛しているという証拠」
〓夏休みの勉強は『運命の出会い』〓
【おわり】
読んでいただいて
ありがとうございます。
今回はよく友達と「夏休みまでに彼氏ほしー」「花火大会彼氏と行きたいー」と話していたことと、
「1年中ろくな出会いがないー」と言っていたことを合わせてネタ話にしました。
出会いはないんじゃなくて出会いは故意に作れる、そんなお話です。
出会いを“出会った”んだと“運命”だと思うのってきっかけは何なんでしょうね。私には分かりません笑。
皆様は親に恋愛相談をしますか?
町田家は運命工作の血筋ですね。さて結果は次ページにちょっとだけ載せています。
良かったら読んでみて下さい。
本当にありがとうございました。
2010.06.12
新おじぃ
―――恵美ちゃん?
ああ、可愛いよね。子供で。
最初はびっくりした。
図書館に卒論しに行ったんだけどさ、入った瞬間こっち凝視してくるコが居て。
それ恵美ちゃんだったんだけど。
変なコだなって思った。目覚まし時計置いてるし。
次の日も何気に目覚まし時計のコが居て。
よく考えたらそのコ、筆記用具使わないのにカウンター席に腰掛けるって図々しいなって。
だって机ないソファー席で懸命にペン動かしてる人も居るのに。
恵美ちゃんってば目覚まし時計置いるだけで物書きしてないじゃん?
やっぱ気が利かない子供だなって。
あ、可愛いよ。無邪気で。
で、卒論してんのになんか視線感じて。若干うっとうしいなと。気が散るからさ。
そしたらびっくりしたよ。話しかけてきたから。
変なコじゃなく面白いコだなって思った。
中学生の癖に、勉強頑張ってるんだなって。本一生懸命読んでて、無垢だなと。
いつからだろう、恵美ちゃん探すようになってて。
後はこっちが主導権握ってみた。
勉強付き合ってやってご飯食って。
いちいち本気な感じが可愛いなって、見てて飽きない。
中学生ってさー、8歳差?ちょっと考えるよね。
俺ろりこんって奴?とか。
恵美ちゃん本当に一生懸命好きでいてくれるんだなあと。
――花火大会??
誘われた時は正直自分も中学生に戻ったみたいに心ん中でガッツポーズした。
良いのかな。まあ惚れたら負けだよね。
恵美ちゃん知らないだろうな。
俺が図書館に行ったのは、毎朝同じ時間に家の前を通る女の子を、
軽い気持ちでつけてみたからだ。
ストーカーじゃなく。
一目惚れしたのは俺が先。
恵美ちゃん驚くだろうな。
俺がわざと“出会った”んだってこと。
まあ、運命って自分次第だろう。
俺はそう思うよ。
〓ロリコンかと悩む平井一輝〓