それは、まるで梅雨の時期の様な風景。
―憂鬱、寂しさ、悲しさ、やるせなさ…すべての否定語を漏れなく詰め込んだかの様な風景―
もはや、優子は何も考えられなくなっていた。
だがその時、そんな優子の目の前に、誰かがふっと現れた!


「泣かないで…」
「!」
優子は、聞き覚えのある、その幻想的な声にはっとしてその声の持ち主を見た。


―この子、あの時の…―


夕霧ケイだった。ケイは、あの時と同じく無表情なままで、優子にそっと白いハンカチを差し出した。優子は、何も言わずごく自然に、ケイからそのハンカチを受け取り涙をふいた。そして優子は、ケイにも聞こえるぐらいの独りごとをつぶやいた。
「…恋なんて、しなきゃ良かった。」


それから、どれぐらい時が経っただろう。すでに辺りは暗くなり、空には月が輝いている。ただ、ベンチにへたりこんでいる優子と、その目の前に立ち尽くすケイという構図は、未だ継続されていた。