しばらくの間、二人とも無言のままで、延々と続く梅雨景色を眺めていた。
…それから、どれぐらい時が経っただろうか。


―君、可愛いね。―


そう言ったかと思うと次の瞬間、急に真琴はその少年の両肩をつかみ、床に押し倒した。
急な事ではあったが、意外にもその少年は無表情のまま、抵抗する様子を全く見せずに、ただじっと、真琴の瞳を見つめていた。
真琴も真琴で、その意外な反応に少しとまどいつつも、その少年に優しく微笑みかけると、
「…キス、していい?」
そう言って、そのまま真琴は、その少年の唇に自分の唇を重ね合わせようとした、その時…


「…ごめん。私、どうかしてた。」
真琴は、少し寂しそうな顔で、その少年からゆっくりと離れた。


「ある人に雰囲気が似ていたから、つい…」
真琴は、そう言って未だあおむけになっているその少年に手を差し出した。
「本当に人形って訳じゃないんでしょ?手を貸してあげるから。」