…恐る恐る、顔を覆った両手の指と指の間から、手首を切ったケイがどうなったのかをうかがった。
しかし、目の前に広がっていた光景は、優子が想像していた物とは全くかけ離れた、幻想的な物だった。


―優子とケイの間には、ふわり、ふわりと、優雅にそして、月明りに照らされて美しく輝く、無数の紅色のシャボン玉が舞っていた。優子は自然と、その紅のシャボンの一つにそっと触れていた。
それは、心地よくぱちんと弾け、様々な夢の様な日々を優子に回想させる。ひろとの思い出。楽しい時も辛い時も、ひろを常に身近に感じていたあの日々。恋は実らなかったけれど、どんな綺麗な宝石よりも美しい、素敵な思い出をもらった…―


「…ありがとう、ひろ君。」
そうつぶやいた後、優子ははっとした。辺りは元の薄暗い夜の公園の風景。気付けば、すでにケイも姿を消していた。