ピ……ピ……ピ…

規則正しい機械音が
部屋中に反響している

胡蝶の目の前には
いくつものチューブに繋がれた老人の姿

朝は畏れを抱くほど威厳を放ち
いつもと何ら変わりない姿であったはずが
たった数時間後に
こんな場所でチューブに繋がれていることなど
一体、誰が予想できただろう

目の前に確かにある現実の
その意味が掴めないまま
胡蝶は驚愕にただ立ちつくしていた



機械音に沿うように
消え入りそうな細い音が耳を伝う

「……胡蝶か」

いつかどこかで聞いたような
懐かさを含んだかすれ声が
私につけられた名を口にした


「死ぬの?」



「さあね…」

この状態でも
まだ微笑みを浮かべている余裕があるらしい老人の
その並々ならぬ何かに
胸の辺りに何かがせりあがってくるのを感じた


「私に…何か言うことあるんじゃない?」

「……」



静寂に時は流れていった



「…ありがとう」


ピ…ピピ…ピ――――――

突然の言葉に
なぜ…、と問おうと弧をえがいた唇が
訪れた終わりに静かに閉じていく


初めて伸ばした指先に触れた老人の指先は
まだ温度をその身体に留めていた


胡蝶は静かに扉を閉めた