「散歩…行かない」


あれから数十分が過ぎ、
沈黙に耐えかねたのか胡蝶と呼ばれた少女が
ポツリポツリと話しだした

「そうか、それは残念だ」

「胡蝶、私に何か聞きたいことはあるかい?」


「…出ていって」

「ほら、今日はいい天気だよ」


俯いたままただ静かに
老人が部屋を出ていく足音聞いていると
扉が控えめ音を立てて世界を隔てた


先程まで老人が見ていただろう方を向くと
鉄枠が錆びた小さな窓から空が見えていた

十年以上ここに住んでいるけれど
気がつかなかったな…。


胡蝶が窓に近寄る
久しぶりにみる太陽に瞳は光の白のみを映しとる

痛む目を労るように、瞼をかたく閉じては
感覚のみで窓の縁をたどり、ゆっくりと押し開いた

まだ慣れない瞳に瞼を少しずつ開き外をみると
上には空、下にはたくさんの家々が
まるで何かの群れのように広がり続けていた

灰色の箱
その中には私の嫌いな人間が
たくさん生きている


人間…そういえば
“君はまだ殺してない”とは
どうゆう意味なのだろう…。

君以外…誰かは殺したのだろうか。

「まさか…あの日のことに関わっていた?」

「…それとも私もいつか殺すつもりなのかしら。」


本当に問いたい言葉は虚空にとけ、
胡蝶は誰もいない時にただ身を預けた
アルビノの瞳は遠く空を見続けている


「胡蝶さんですか!!大変です…」



私の生活は14年と8ヶ月前から変わらない


何一つ変わらない世界に
何か変化が加えられたら
私は何かを掴むことができるのだろうか