「あっ!な、永倉さん!やめて!」
後の障子が開いたとたん、少女が慌てて止めに入る。
カキッと音がして、自分の首に食い込んでいた刀の力が和らいだ。
知らないうちにきつく閉じていた目をゆっくり開けると、目の前には先ほどの少女がいた。
ただ、脇差を抜いて後から当てられている刀を押し返している少女の姿は、先ほどと同じ人とは思えなかった。
「・・・なんだ?優希の知り合いか?」
首から刀がはずされ、チンっとしまわれる音がした。
同時に少女も脇差をしまう。先ほどの着物姿とは違い、袴姿で、腰には大小の刀までさしている。
肩より少し長いまっすぐな黒髪が、高い位置で結われ、風になびいていた。
「知り合いじゃないけど、屯所の前で倒れてたからつれてきたの。」
「・・・お前の判断って事は、何か訳ありか?」
「うん、何か事情がありそうだったから・・・」
そういって優希と呼ばれた少女は、青年のほうに顔を向けた。
「ごめんなさい、驚いたでしょう?この人は、永倉新八さん。」
「・・・な、永倉新八ってあの・・・」
おそるおそる振り返り、自分に刀を向けた人物を見上げる。
少し茶色がかり、風にさらさらとあおられる短髪。整った顔には、疑いの表情が浮かべられていた。
「お前が言ってる永倉新八が、俺かどうかはしらねぇが、確かに、何かありそうだな。」
「永倉さんは、ここの副長助勤なの。2番隊の隊長もしてるんです。それで彼は・・・」
優希が言葉に詰まり視線を向けたことで、何を問われているかを理解した。
「あ、俺は奥村雅貴です。」
まだ名乗っていないことに気がつき、慌てて自己紹介をして頭を下げた。
「私は、夜風優希です。夜の風と書いて、やかぜと読みます。」
微笑んで優希が名乗ると、永倉に視線を向けた。
「それで永倉さん、今から彼に話を聞きたくて。切るのはそれからでも遅くないでしょ?」
優希の言葉に、永倉は小さく息を吐いた。
「わかったよ。じゃ、俺の部屋に来い。ここより奥だから、他の隊士の聞き耳も心配ねぇだろ。」
それもそうだと、優希がうなずくと、永倉は動き出した。
優希に行きましょうと声をかけられ、二人で永倉の後を追った。