「あの、永倉さん。」
「ん?なんだ?」
静まり返った屯所の廊下を歩く途中、奥村は立ち止まって永倉を呼び止めた。
そして、何度も飲み込んだ疑問を、思い切って永倉に問いかけた。
「夜風さん、何してるんですか?」
奥村の問いに、一瞬戸惑いの表情を見せた永倉は、すぐに厳しい表情を作って答えた。
「隊士でないお前に、話せることじゃねぇ。」
突き放すような永倉の言葉に、奥村は引き下がらなかった。
「隊士じゃないですけど、何も知らないのは辛いんです。永倉さんだって、俺の気持ち分かりますよね?」
「・・・。」
「皆、ここ数日、落ち着かない様子でした。沖田さんも、平助も、原田さんも・・・。もちろん、永倉さんもです。知らなかったからですよね?夜風さんが、何をしているのかも分からないまま、すれ違っているのに不安だったんですよね?」
「奥村。」
「俺は、この時代の人間じゃありません。だからこそ、この時代で助けてくれた夜風さんが危険な目に合っているのに、のんびり過ごしていられません。俺にだって、何か出来るはずです。知っているのなら、何をしているのか聞いたのなら、俺に教えてください。」
一気に捲し立てる奥村に、永倉は冷静に、静かに問いかけた。
「お前に、覚悟があるのか?」
真っ直ぐに永倉に見据えられ、奥村は少し怖気づいた。
「か、覚悟?」
そんな奥村を、さらに見据えて永倉が続ける。
「あぁ、覚悟だ。」
「何の覚悟ですか?」
意味の分かっていない奥村の言葉に、永倉は静かに答えた。
「人を斬る覚悟だ。」