「永倉さん、何かあったの?」

前を歩く永倉に、優希は問いかけた。

「あー、稽古中にな、俺のとこの隊士が、お前のところの藤野につっかかって、ちょっと揉めてんだ。」

話しながら足を止めた永倉の横に、優希は立つ。

「藤野君が?」
「ちゃんと見てねーが、先に喧嘩を売ったのは俺の隊士だ。きつく叱っといたから、藤野には怒らねぇでやれ。」
「わかった。」
「で、藤野のやつが今道場でふてくされてる。すげー剣幕で怒ってたからさ、話聞いてやったほうがいいんじゃねぇかと思ってよ。」
「そっか。ありがとう。」

永倉に御礼を言うと、優希は道場に足を向けた。
その背中を、永倉が引きとめた。

「優希。」
「ん?」

呼び止められ、永倉に振り返る。

「・・・お前、また何かあるんだな。」

永倉は、少し悲しげな視線を優希に投げた。

「・・・仕事だから。」
「無理すんじゃねーぞ。」

自分が踏み込んではいけないことだと分かっている永倉には、それが精一杯の言葉だった。

「大丈夫だよ。私が強いの知ってるでしょ。」

そんな永倉の不安を吹き消すかのように、優希は笑顔を見せる。

「・・・ばーか。強いお前より、俺のが強いんだよ。」

優希の暖かな雰囲気に永倉は口元を緩めた。
そして、少し前にいた優希の横を通り過ぎ、声をかけた。

「道場行くんだろ?早く行くぞ。」

また前を歩き出す永倉の背を、優希は足早に追いかけた。