「私がやってるのは……、まず一小節吹けるようにすること」
「あー、最初から全部吹こうとしないってことかぁ〜。とりあえず音階シャーペンで書いていった方がいいよね?」
「うん。音階で歌を歌う感じで覚えていくの」
「なるほどねぇー」
私と馬場さんの会話をそばで聞きながら、瀬川くんは私の机でほおづえをつきながら感心した笑顔を浮かべた。
「てかさぁ、杉田がまともにしゃべってんの、初めて聞いたんだけど」
瀬川くんのいきなりの発言に、馬場さんはリコーダーを口から離した。
「瀬川、マジで失礼だし〜!そりゃあ、杉田さんもしゃべるっしょ〜?アンタは無駄にしゃべり過ぎなんだよ」
「馬場もしゃべり過ぎだろ?だいたい、他につるんでる女子いなかったっけ?」
そこまで瀬川くんが言うと、馬場さんの顔から急に笑顔が消えた。
あ……。
やっぱり、この話題は禁句だったのかな…?
徐々に暗い顔になっていく馬場さんに気付いて、私はとっさに瀬川くんの方を見た。
「あれ?もしかして仲間割れ?」
けど、瀬川くんは馬場さんの表情なんて全然気にしていない様子で教科書に音階を書き込んでいる。
「うるさいなぁー、アンタに関係ない」
「でも杉田には関係あるよな?」
「なんで…」
「だって、ただのケンカなら、仲直りしたらまた杉田のこと放っておくんだろ?それってヒドくねぇ?」
「ち、違……」
馬場さんの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
これって、どういうこと……?