本を代わりに取り、手渡すと本当に嬉しそうに笑って、

「代わりに取ってくれて、ありがとうございます。
この本、一度読みたかったんです。助かりました。」

と言ってくれたのだ。


ただ、それだけ。


だが、それだけでティースの中で彼女は特別な存在になってしまったのだ。

こんな話はまだジークには話しては居ない。
言えば多分…色々と言われるだろうと云う事を安易に想像できた為に。

「笑いかけて貰っただけだろうが」

だとか

「そんな事だけで惚れてたらどんだけの女に惚れてる事か…」

と云った感じで。
癪に障るが、そう言われても仕方ないと思ってしまう自分が居た。

(だけど…こんな事初めて…なんですよね……。
あ…)

ティースは思わず立ち上がる。
自分の想い人が、入ってきたのが解ったから。