散乱する窓ガラスの破片を尻目に、八崎は昇降口に向かった。



時刻は9:40。



無事授業が終わっているクラスがあるとしたら、一時限目の休み時間のはずだ。



靴箱を通り過ぎて階段をのぼると、数名の生徒が廊下にたむろしているのが見えた。


言うまでもなくヤンキーだ。


しかし、八崎は構わず飄々と歩く。


「おい、誰だよアイツ。見慣れねぇな。」
 


男子生徒の中の一人が、敵意をむき出しにしてそう言った。


だが、彼の口は一瞬にして近くの生徒に押さえられる。



 「バカッ…!何言ってんだよっ。ザキじゃねぇか、ありゃあ。」


耳元で囁かれた途端、彼はみるみる内に顔面蒼白になった。


「やっべえ…、マジかよ!」


「お前、後でシメられんぞ。」
 


とんでもない始末が予想される中、当人の八崎は無言まま彼らの前を通り過ぎる。


しばらく歩くと背後から安堵の息が漏れた。



(それくらいじゃ別に、ヤキ入れたりしねーんだけど。なんか噂が独り歩きしてるよなあ…。既に最強伝説までつくられてるし、まあ若者の想像力はおめでたいぜ。)