「どう――?」

「うん、美味いよこれ。未央がこんなに料理上手いって、知らなかったな。レストランだって出来るよ」

 これ以上無いと思えるほどの褒め言葉に、弁当箱を膝に乗せた未央がクスッと笑う。

「大げさだよ響」

「そんな事無いって、ホント美味いもん。俺、これなら毎日食ってもいいな」

「毎日?」

 次々と手を伸ばす響を見ながら、未央は首を傾げた。

「そう、死ぬまで毎日未央の手料理食っても―― あ……」

 そこで響はハッとして言葉を止めた。

 死ぬまで毎日手料理を食うという事が何を表しているのか、第三者が聞いたらどう思うのか――

 急に手を止めて真っ赤になる。

(ヤッベェ!―― これじゃプロポーズだ)

「べ……別に深い意味は無いんだぜ。結婚とかそんな、そう言う意味じゃなくて、ただ単に美味いなって――うっ……ゴホッ!……ゴホッ!」

「響!」

「喉……詰まった――」

「何やってるの!早くこれ飲んで――」

 未央が急いでコップに紅茶をついで、箸を握ったままジタバタしている響に渡す。

 響はそれを飲み干すと、ホッと胸を撫で下ろした。

「あぁ……死ぬかと思った」

「………プッ!―― フッフッフッ」

 笑い出した未央を横目で見て響が頭を掻く。

 未央はしばらく笑い続けて―― やっと止まった。

「フゥ……可笑しかった」

「俺、そんなに可笑しい?」

 大笑いされ、肩を落とした響に微笑む。

「響といると楽しい。いろんな嫌なことや辛いこと、淋しいこと悲しいこと、みんな忘れられる……」

 呟いた未央を響はじっと見つめた。

 楽しいと言いつつ、未央の微笑みは何処か寂しげに見えた。

「何か……楽しいって顔じゃないぜ。千聖と何かあったのか?まさかあいつまた寝ぼけて――!」

「違う違う、そうじゃないの」

 両手を顔の前で横に振り、急いで否定する。

 そうしなければ、今直ぐにでも千聖の所へ駆け出して行きそうだったからだ。