少し上から見下ろす千聖の顔。

 スッと通った鼻筋。

 長い睫毛。

 そして鴉の羽の様に真っ黒くサラサラした髪――

 思わず触れてみたくなり、未央はそっと手を伸ばした。

 途端、千聖が顔を上げた。

 包帯が巻き終わったのだ。

 未央は慌てて引っ込めた手で、ポリポリと頬を掻いた。

「ぁ……ありがとう」

 そう言い終るか終わらないかと同時だった。

 一旦引っ込められた千聖の手に今までとは反対側の足を掴まれ、未央はドキッとした。 

 千聖は訝しげに目を細めていた。

「こっちの足。何をした?」

「え――?べ、別に何も――」

「何もじゃないだろう?紫色になってるじゃないか」

 言われて、未央は初めて気付いた。

 右足の外側くるぶしの辺りが紫色になっている。

 相変わらず痛みもあったし、腫れているだろうとは思っていた。

 でもこんなにハッキリ色が変わっているなんて、考えてもみなかったのだ。

 どう考えても拙い状況に、胸は益々ドキドキしてくる。

 握り締めた掌は、暑くも無いのに汗が滲んだ。

 自分がティンクだと千聖が気付いたら、もうここには居られなくなる。

 千聖の傍に居られなくなる――

 でも、千聖からそれを言い渡されるのは嫌だ。

 だったら自分で言うしか無い。

 未央はゴクリと唾を飲んで深呼吸した。

「あ……あのね、じつは私、千聖に隠してる事があるの。あのね、私本当は――」

「どうして足がこんなになったのかって訊いてるんだ。他の事なんか訊いてない。言っただろう?あんたの事なんか興味無いって」

 発しかけた言葉を遮られ、未央は一瞬黙ってから頷いた。

「うん……分かってる」

(千聖は気付いていない?私の事なんか興味無い?回収屋の私には興味があるって、もっと知りたいって言ったのに、本当の私には興味が……無い……)

 何とも言えない複雑な気持ちになる。

 未央は膝に乗せた両手へ視線を落とした。