涙声だった。

 不安そうだった。

 気持ちは痛いほどよく理解できた。

「何でもない」

 千聖は未央の問いに答えると、キッチンへ行き冷蔵庫から野菜ジュースの缶を二本出して来た。

 ソファーに座り、一本を未央の前に置く。

「これ、私に?」

「他に誰か居るのか?」

「だって千聖がこんな事してくれるなんて……」

「珍しい―― か」

 未央は肯いた。

 千聖はフッと笑った。

「足だよ」

「えっ?」

「足、痛そうだから歩かない方がいいと思ったのさ」

 思わずドキッとする。

 どうして足のことを知っているのだろう?

 ティンクの足の事は知っていても、自分―― 小野寺未央の足の事は知らないはずなのに。

 未央は千聖からは見えない位置で手をギュっと握り締め、少し俯いて上目でソファーの向こうの相手を見た。

 また千聖が口を開く。

「火傷したとこ、酷くなってるじゃないか」

「あ、ええ、そうなの。靴で擦れちゃって水膨れが破れちゃった」

 千聖の視線は、火傷に巻かれた黄色い染みがついた未央の包帯を見ていた。

 ホッと胸を撫で下ろす。

 千聖は黙ってジュースを飲み干すと、今度は薬箱を持って来た。

「足、こっちへ出せよ」

「うん」

「パジャマの裾」

「あ、うん」

 言われるがままにズボンの裾を引き上げる。

 千聖は未央の前に膝をついて包帯を外し、足をそっと持って優しく薬を塗った。

「上の方はもう大丈夫だな。でもここは痛そうだ」

「痛っ……」

「包帯は外すな。靴も擦れるから履くな。サンダルにしろ。そうしないと治りが遅くなる」

「はい」

 命令口調の少々キツイ言い方ではあったが、心配してくれているのが分かり未央は直に肯いた。

 千聖の手によって再び包帯が巻かれていく。

 火傷は痛かったが、未央は何となく鼻歌を歌いたい気分だった。