翌朝――

 鳴り出した目覚まし時計を急いで止め、未央はパジャマに上着を羽織って静かに部屋を出た。

 足を引きずりながらゆっくりとポストに向かい、新聞を取り出す。

 当然のように関東日報だ。

 昨日、千聖は日付が変わってから帰って来た。

 本当はお礼を言えない代わりにコーヒーくらい入れたかったのだが、そんな事をしたらその訳を知らない千聖にまた『構うな』と叱られそうだし、足も痛かったので、そのまま顔を合わさずに寝てしまった。

 ソファーへ腰を下ろし、テーブルに新聞を広げる。

 回収屋の記事は載っているのだろうか?

「あった――」

 第二社会面に囲み記事になってそれは掲載されていた。

「ベイシティホテルで起きたウエディングドレス盗難事件。そしてそれ以前の数々の事件。大切にしていた物を不当に奪われた人達のために暗躍する、現代の義賊……話題の回収屋にインタビューを試みた。―― 年齢はまだ若く、あるいは未成年か……。彼女の行動は違法なものであるには違いないが、彼女に仕事を依頼する人が後を絶たないのも事実である。―― ピーターパンに憧れ、彼を追い続けるティンカーベルのように、父と母の遺品を探し求める彼女を『ティンク』と呼ぶ事にした……何?これ――」

 未央が首を捻ったちょうどその時、千聖が今は自分の物となった東側の部屋から出て来た。

「おはよう千聖」

 掛けられた声にチラリと未央を見る。

 それから髪を掻き上げながら「おはよう」と答えた。

「なんだ、新聞見てたのか。珍しい事もあるもんだ」

「え?ああ、うん。たまには社会のことも勉強しないといけないと思ってね」

「その方がいいな。あんた物事を知らなすぎる。もっと色々見たり聞いたりして頭を使った方がいい。本能で動くのじゃなくね」

 ソファーに腰を下ろすと、千聖は向かい側から新聞を覗き込んだ。

「で、何処を読んでたんだ?」

「社会面を――」

「その囲み記事読んだか?」

 煙草を銜え、回収屋の記事を指さす。