「それは気絶するかと思うほど乱暴で――」

「赦せねえっ!」

 そして声を上げ向かって来た響の顔にカーテンをフワリと被せると、テーブルのカップを手に取ってコーヒーを一口を飲んだ。

「―― 凄い夜だったらしい」

 絡み付くカーテンから勢い良く飛び出した響は、今度は足を引っ掛けられてバランスを崩し、ソファーに顔から倒れた。

「そういえば彼女、その時悲鳴を上げていたような気がする。『嫌ぁあっ!』とか『やめて!』とか、結構いい声だった。クックックッ……」

 急いで起き上がった響を見て、千聖が笑う。

「笑うなぁああっ!」

 鼻を押さえて響は怒鳴った。

「その上一晩ベッドを共にして、翌朝胸を二回掴んだ」

「違うわ、三回よ」

 未央の声を耳にして、千聖が前言を修正する。

「三回だそうだ」

「絶対殴ってやる!」

 空になったカップをテーブルに置いた千聖に響が殴り掛かる。

 今度はその場から動かずに、千聖はニヤリと笑った。

 力一杯繰り出された響の拳が、千聖の顔の前で掌に阻まれてパシッと音を立てる。

 そのまま拳を内側に捻るようにして、千聖は響の後ろに回り込み――

「痛ぇっっっ――!」

 腕をねじ上げられて響は悲鳴を上げた。

「響!―― 千聖やめて!手を離して!」

「やめるのはこいつの方だろう?これは正当防衛だ」

「分かった!やめさせるから、離して。お願い、響の腕が折れちゃう!」

 千聖は未央の言葉にフッと笑うと、やっとその手を離した。

 腕を抱えてその場に座り込んだ響に、未央が駆け寄って顔を覗き込む。

「響、大丈夫?お願いもうやめて」

「くっ……畜生……」

 隣の向坂さんのお兄ちゃんに、こんな特技があるなんて知らなかった。

 いや、そんな事より未央に情けない姿を見せたことが悔しかった。

 千聖は二人にチラリと目をやると、ポケットから煙草を取り出した。