未央に促され、後について部屋に入る。

「あのね、千聖。この人私の同級生の流石響君。彼ね、以前隣の505に住んでたんだって。覚えてない?」

「さあな」

 リビングのソファーに座ると、千聖は背もたれに深く寄り掛かり目を閉じ天井を仰いだ。

「今日はね、私の荷物持って来てくれたの。あれこれ欲張ったら重くなっちゃったから」

「荷物って――?」

 そのままの体勢で千聖は訊いた。

「着替えや学校の物や身の回りの物」

「呆れたな。まだここに居るつもりなんだ」

「いけない?」

「いい加減に出て行ってくれって言っても、どうせまた言うんだろ?責任取れって」

 千聖の言葉に未央が一瞬黙る。

「おい、未央。責任取るって何だよ?」

 代わりに、千聖の言葉尻を捉えて響が口を挟んだ。

 体育館の裏で未央から聞いた話を思い出したのだ。

 二日間も二人っきりで過ごしたという――

「まさかこいつに……あんた未央に何したんだ !?」

 それから千聖へ視線を移すと、いきなり食ってかかった。

 大きな声をだした響とは対照的に、千聖は肩越しに声の主を見てへらりと笑った。

「俺がやったのは朝寝ぼけて、隣に寝ていた彼女の胸を掴んだこと」

「何だと!」

「響!やめて!」

 言うや否や未央が止めるのも聞かず、響はソファーに寄り掛かっている千聖に掴み掛かかった。

 千聖はテーブルをポンと蹴ると、まるで逆上がりのように後転して背もたれの後ろに降り立った。

 カップの中のコーヒーがチャプンと波打ってテーブルに少し零れた。

 ソファーを挟んで、たった今まで千聖が腰掛けていた場所へ膝を突いている響を見ながら言葉を続ける。

「だけど彼女が言うには、俺は前の夜にハードな初めての体験をさせたらしい」

「って―― !? ……畜生!この野郎!」

 響もソファーを飛び越える。

 千聖は素早くベランダに出る窓の傍に寄り、微笑んだ。