「こっちだって驚いたわよ。千聖、何回呼んでも知らんぷりしてるから、そんなに真剣に何を見てるのかなと思って覗いたら急に大きな声出すんだもの。―― あぁ驚いた」

 未央は胸に手を当ててホッと息をついた。

「ね、何見てたの?」

「何でもいいだろ。あんたには関係な――」

「見せて」

 千聖の言葉を遮って新聞を取り上げる。

「返せよ、まだ読んでるんだ」

「どれどれ――」

 ページを捲りながら未央は立ち上がった千聖に背を向けて、ソファーの反対側に座った。

「へぇ――。また出たのね、怪盗コメット。今度はこの石を盗んだんだ。―― これってなんていう石なの?」

「トパーズだ」

 仕方なく新聞を取り返す事を一旦諦めて、未央の問いに答える。

「どんな色なの?」

「黄色だ。アクアマリンの色をもっと濃くしたようなブルートパーズっていうのもある」

「アクアマリンって何?」

「緑柱石(りょくちゅうせき)のうち、藍青色(らんせいしょく)の物をそう呼ぶ。翆緑色(すいりょくしょく)の物はエメラルド」

「あ、エメラルドは知ってる。五月の誕生石よね。でも、緑柱石って何?」

「ベリリウムとアルミニウムとのケイ酸塩鉱物。緑色の六角柱状結晶」

 未央は千聖をじっと見つめた。

「―― さっぱり分からないわ」

「なら訊くな」

 途端に手を伸ばし、未央の手から新聞を取り返して千聖は元の場所に座った。

「ねえ、千聖はずいぶん宝石に詳しいのね」

 新聞を広げ目で文を追いながら、興味津々で隣に移ってきた未央に答える。

「常識だ」

「常識?でもさっき言ってたベリリウムとアルミニウムのなんとかなんて、ほとんどの人が知らないわよきっと」

「俺にとっては常識なんだ。父親が――」

「お父さんがこういう事詳しいの?ね、千聖のお父さんってどんな人?何の仕事してるの?」

「……あんたに言う必要ない」

 千聖は一瞬未央に目をやって、また新聞に戻した。

 そのまま黙り込む。