一人息子の千聖に一言も告げず、しかも何の旅行準備もしないまま突然姿を消し、やがて沈没した客船の乗船名簿から両親の名前は見付かった。

 遺体も遺品も無く、何が何だか分からないうちに千聖は独りぼっちにされたのだ。

 そして――

 それから何カ月も過ぎたある日の事。

 千聖は両親の部屋の机の引き出しから、二枚のメモを発見した。

 父の字だった。

 一枚のメモには「幸福をもたらすという影を持つ【七つの石】をとうとう手に入れた。私はこれを愛する千聖のために大切に保管しておこう。いつの日にか、この石に隠された秘密を千聖が解く日まで。それまでは何としてもこの石を護らなくては」とあった。

 そのメモが書かれたのは、父が行方不明になるわずか一週間前。

 千聖は自分名義で【七つの石】を保管してあるという銀行の貸金庫をすぐに訪れた。

 しかしその時には、【七つの石】は一緒に保管されていた他の宝石類と共に、誰かの手によって既に持ち出された後だったのだ。

 大多数の宝石の行方はすぐに分かった。

 だが【七つの石】と思われる物は、一つとして見付からず――

 千聖は確信した。

 父と母は事故で死んだのではない。

 影を持つ【七つの石】を手に入れたために殺されたのだ。

 その石の示す宝を狙う誰かの手によって。

 父は誰から石を護ろうとしていたのだろう?

 石の示す宝とは――?

 それを知るためにはとにかく【七つの石】を捜し出し、もう一枚のメモに書かれた文を解かなくてはならなかった。

【影の名を呼び頭を捻れば、自ずからその姿現れん。守護者の加護を受けしものに影を捧げ、その背に描かれし所、石の数示せば宝の箱開く】

 千聖は溜め息を吐いた。

 ソファーに横たわったまま新聞を手にする。

 紙面には【ゴールデン・ディアー】の記事が大きく取り上げられている。

「残りの石は六つ――」

 何となく口にした途端、顔のすぐ傍に誰かの顔が――

「うわぁああっ!」

「きゃっ!」

「なんだよ!驚かすなよ」

 千聖は新聞を持ったまま飛び起きた。

 そう、突然飛び込んできた上に、ここへ居座ると言い出した奇妙な少女の存在を忘れていたのだ。