「コーヒーでいいな?」

「ああ」

 コーヒーを持って戻ると、響は壁に飾られた絵を見ていた。

「未央の親父さんの描いた絵だ。いい絵だろう?」

「これが……」

 未央はこの絵のために、誰にも内緒で回収屋をやっていたのだ。

 そして、千聖と知りあった。

 千聖と――

『それは彼が同じ穴のムジナだからだよ』

 あの神部という男の言葉が蘇る。

 響は千聖の方に向き直ると、ソファーに腰を下ろした。

「話してくれるよな?あんたの事、あの男の事」

「ああ」

「もう秘密は嫌だからな」

「分かってる。こうなった以上、隠そうとは思わないさ。ただ、君にとっては――」

「いいよ。未央がティンクだって事聞いて十分驚いたから、もう何を聞いても驚かない」

 コーヒーに砂糖とミルクを加え、スプーンで掻き混ぜながら言った響に千聖は目をやった。

「そうか……聞いたのか」

「ああ、耳がおかしくなったのかと思ったよ」

 響の答えに千聖がフッと笑う。

「それじゃあ安心して喋れるな」

 そう告げて煙草に火をつけ二度ほど吹かすと、千聖は直ぐに口を開いた。

「俺はコメットだ」

「えっ?」

「『怪盗コメット』―― 世間でそう呼ばれているのが俺だ」

「えぇええぇっっ !?」

 途端に、響は何かに弾かれたように立ち上がった。

(千聖がコメット !? あの宝石専門の怪盗の?監視カメラがいっぱいついてるデパートから、中央美術館の女神像から、何とかいう金持ちの家から宝石を盗んだ?ウソだろ !?)

 沢山の疑問符が頭に浮かび、響は目を白黒させた。

「フッ―― なんだ?何を聞いても驚かないんじゃなかったのか?」

「べ……別に驚いたわけじゃねえよ」