響がその後ろに続く。

「知ってるんだろ !? 神部って奴。あいつ言ってた。あんたと未央は、同じ穴のムジナだって。あんたに会えって。会って『飼い葉桶の底で待ってる』って言えって!」

「飼い葉桶の底?神部がそう言ったのか?」

「ああ」

 響の答えに、千聖は窓の傍で足を止め、硝子を伝う雨の滴を見つめた。

 あの絵の裏に書かれている言葉を、神部は知っていた。

 そうだ――

 思えば、石は全て神部が一言いえば手元に揃えられる所にあったのだ。

 あの人魚の絵があったのも、仲間の赤峰の屋敷。

 父親の残した文と同じ物を神部が持っているとしたら、アナグラムに気付けばトラップを解除して絵の裏を確認する事だって可能だ。

 全ては、最初から神部の手の中にあったという事だ。

 それなら何故、コメットが石を集めるのを黙って見ていたのだろう?

 【飼い葉桶の底】の意味も分かっているなら、何故自分で宝を手に入れない?

 そして何故、神部は未央の事を知っている?

 考え込んだ千聖の後ろで、響は動物園の熊のように行ったり来たりしていた。

「あいついったい何なんだよ。知ってるんだろ?何で、未央が連れて行かれなきゃならないんだよ?同じ穴のムジナって、どういう意味なんだよ !? あんた分かってるのかよ !! 未央が連れて行かれたのは、あんたのせいなんだぜ!あんたのせいで――」

「ああ、分かってる!十分わかってるさ!」

「畜生 !!」

 一気に捲くし立てた響は千聖の肩を掴んでこちらを向かせると、次の瞬間飛び掛かった。

 床に倒れた千聖の胸ぐらを掴んで、殴りつける。

 千聖は何の抵抗もせずに、響の為すがままにしていた。