未央の言葉に千聖はホッとした。

『覚えがない』と言ったものの、少し心配だったのだ。

 千聖をよそに未央が続ける。

「そりゃあれは元はといえば私のせいだから仕方ないけど。でも私が言ってるのはそんな事じゃない!」

「じ―― じゃあ何なんだよ。とにかく俺は何もしてない!昨夜はあんたの薬で、何もかも忘れて朝までぐっすり眠れたからな!おかげでこんなお荷物背負い込んじまったよ!」

「したわよ!」

「してない!あんただってたった今そう言ったじゃないか!」

「したってば!さっき!」

「してな――」

 そこで千聖は言葉を止めた。

(えっ?さっき――?)

「触ったじゃないの!私の――」

 未央は恥ずかしそうに下を向くと、消え入りそうな小さな声で続けた。

「胸―― 掴んだくせに。ギュッて……」

 途端に千聖は青くなった。

 今の今まで未央がそこに触れてこなかったので、気付かれていないと思っていたのだ。

「そ―― それは偶々だよ、偶々。だいたいあんたが悪いんだろ?人のベッドに潜り込んだりして。手を伸ばしたら偶々何か柔らかい物に触って、何かなと思って掴んでみたら、それが偶々その―― だったわけで――」

 苦しい言い訳をしながら未央に目をやる。

 未央はうつむいて、キュッと唇を噛んでいた。

 目にいっぱい涙を溜めて――

「あ―― ごめん。悪かった、認めるよ。触ったのは認める、謝る。だけどみょうな気持ちでじゃない。偶々だ。ホントに――」

「私……薬で眠っているから平気だろうって隣に寝た自分が悪いんだからと思って平気な顔したけど、ホントは恐かったんだから……恐かったんだからねえっ!」

 そしてベッドに倒れ込んでシーツを頭までかけ、大声で泣き出した。

「最悪だ……」

千聖は髪をクシャクシャと掻きながら部屋の中を行ったり来たりすると、呟いて床に座り込んだ。