その管理人、山岸は男のくせに酷く世話好きで、仲人をするのが趣味だった。

 だから独身と思しき人物を見掛けると、暇を見付けては見合い写真を持って部屋を訪ねる。

 千聖も山岸が管理人になってからずっと、大学から帰った後や休みの朝に何度も奇襲に合いウンザリしていた。

 そして考えた――

 独身だから狙われるのだ。

 独身でなければ、もうあの山のような見合い写真を見せられる事も無い。

 そこである日、こう告げる事にした。

「じつは俺、結婚してるんです。ただ、妻がまだ高校生で学校へ通っているので、実家に置いてあるんです」

 山岸は納得した。

 千聖はホッとした。

 だが昨夜未央と話しをして、未央がその『実家に置いてある妻』だと勘違いしたに違いなかった。

「最悪だ……」

 溜め息をついて、千聖は肩を落とした。

「どうかした?」

「『どうかした?』じゃないよ。いい加減にしてくれ。帰ってくれよ!あんたの望み通りに一晩泊めてやったんだ。もういいだろう !?」

 急に大きな声を上げた千聖を見て、未央は少し困った顔をした。

「千聖、怒ってるの?」

「ああ怒ってるさ、あんたに関わった自分に怒ってるんだよ!車は壊される、管理人には誤解される、せっかくの休みも台無しだ。だからもうさっさと帰ってくれ!」

 途端に未央は真剣な顔になった。

「家に帰れって言うの?」

「そうだ」

「帰ったら私、一人になるのよ?昨夜の奴らにまた襲われるかも知れないのよ?」

「そんな事、俺には関係ない」

 煩い蝿を追うように片手をヒラヒラと振った千聖に、未央はシーツを掴んだまま飛び起きた。

「酷い―― 優しい人だと思ったのに、そんなに冷たい人だったなんて!」

「ああ、何とでも言ってくれ。もうあんたに振り回されるのは沢山なんだよ!」

「私にあんな事しておいてそんな事言うなんて!ちゃんと責任取ってよ!」

「『ハードな体験』『乱暴』『凄い夜』か?そんな事俺はした覚えがないね!」

「したわよ!だって車の運転―― 事故って死ぬかと思ったんだから!」

「えっ?車?なんだ―― そうか――」