秋江の身体が静かに傾き――

 そして愛用の藤色の膝掛けと共に、縁側に崩れ落ちたのだ。

「秋江さん!」

 抱き起こした千聖の手に、ぬるっとした生暖かい物が触れた。

「血が……何なんだ !? どうしてこんな――!」

「千聖さん?あなた……怪我は無いのね?良かった……。それなら早く……早く行ってちょうだい………誰かに見られたら……あなたが疑われる」

「でも!」

「早く、お願い……行って……私は大丈夫ですから」

 廊下の向こうから人の声が聞こえて来る。

「秋江さん!」

「もうこれ以上、隆利さんを……悲しませたくないの……」

 バタバタと走る音が近付く。

「だから……早く――」

 哀願する秋江に千聖は肯いた。

 庭に降り、もう一度振り向くと、唇を噛んで月明かりの縁側に横たわっている秋江を見た。

 血に染まった拳を握り締める。

 悔しさと怒りで溢れそうになる涙は、瞳の奥で辛うじて止めた。

(誰が?いったい誰が !? ―― 神部か?)

 心の中で繰り返し呟きながら、千聖は暗い夜の中へと走り出した。



…☆…