「私は驚きました。私たちの乗ったボートから海に落とされ、神部に頭を押さえられて波間に沈んでいくあなたのお父様とお母様を前に、何も、声を出すことすら出来ませんでした」

(やはり父さんと母さんは殺されたんだ。あの石のせいで、あの石を俺のために残そうとしたせいで―― 神部に!)

 千聖は目を閉じ、両の拳を爪が皮膚に食い込むほど強く握り締めた。

(神部―― 赦せない!絶対に赦せない!)

 今にも叫び出しそうな喉の奥が、カアッと熱くなった。

 怒りで身体が勝手に震えた。

 秋江は暫く千聖を見つめてから、庭の方へ視線を移した。

「けれども、私が本当に驚いたのはそのずっと後でした。あの方が誰なのかを知った時です。私たちは石を手に入れたあと暫く期間をおいてから、石が示すという【宝】の在処を知るために神部の屋敷に集まりました。それぞれの石を持って。私はその時、神部が別の部屋であの方と話しているのを見てしまったのです」

「誰だったんです !? 神部に父と母を殺すように指示したのはいったい――」

 身を屈めた千聖が、思わず秋江に詰め寄る。

 その時――

 ふいに赤い光線が目の前を横切り、千聖は咄嗟に秋江を車椅子ごと突き放し身を翻した。

「なっ―― !?」

 直後に乾いた音が響き渡る。

 すぐさま顔を上げた千聖の目に、生け垣の遙か向こうを誰かが走って行くのが映った。

(俺を狙った――?いや、違う!)

 自問自答して、すぐに後ろを振り向く。

 次の瞬間、千聖は愕然とした。