「主人はその数日後、自動車事故で亡くなりました。主人から解放されたいという私の願いは叶ったのです」

「……本当に事故だったのですか?」

「ええ。―― たぶん。でも、もしかしたら……」

「神部が殺したのかもしれない。そう思っていらっしゃるんですね?」

 千聖の言葉に秋江は肯いた。

「私は神部の話に乗ることにしました。他の方たちはどうだったか分かりませんが、私自身は石の話を信じたわけではありませんでした。私が主人の死を願っていた事を知っている彼に、主人を殺したのかもしれない彼に、背を向けるのが恐くてそうしたのです」

 秋江は藤色の膝掛けを握り締め、小さく溜め息をついた。

「私たちはあのホワイトローズ号の事故の日、初めて船の上で顔を合わせました。六人で」

「六人?七人ではなかったのですか?」

 少し顔を覗き込むようにして訊いた千聖に、秋江は「ええ」と肯いた。

「当日そこに集まったのは神部・藪澤・赤峰・米村・影山そして私の六人でした。当然あとの一人について私たちは神部に訊きました」

「神部は何と?」

「神部は『もう一人はこの計画を立てた人物です。しかしあの方は、今は理由あって部屋から一歩も外へ出られないので、ここへは来られない』そう言いました。『あの方からの指示は、私から伝えます。計画の実行も私に任せて下さい。あなた方はただ見ていてくれればいい』とも。そしてそのあと、どうしても石を売らないと言うあなたのお父様から影の石を奪い取るという計画を聞かされたのです。でもまさか、殺してしまうなんて――」

 秋江は両手で顔を覆うと、首を横に振った。