『あなたの誕生日は忘れておめでとうの一言も言わないくせに、愛人や愛人の子どもにはせっせとプレゼントをする御主人。体調が悪くてふせっているあなたを、自分の気分だけで抱こうとする――』

「止めてください!」

『あなたはそんな御主人がいなくなればいいのにと、何度も思った事がある――』

「もう結構!」

 秋江は受話器を握り締めた。

 全部、神部の言うとおりだった。

 顔を合わせてもいつも不機嫌で、口を開けば棘のある物言いで―― 大嫌いだった。

 別れたいと思っていた。

 けれども子ども達のことや家の事、秋江を取り巻く様々なことがそれをさせてはくれなかった。

 自分はいったい誰のために生きているのだろう?

 自分自身のためではなく、夫や子どもや家のためにだけ生きているのだろうか?

 そのための人生なんだろうか?

 何度も自問自答した。

『私があなたにお電話を差し上げた理由、分かっていただけましたか?【宝】が手に入れば、あなたはそんな御主人から解放されるのです。残された人生を、ずっと幸せに過ごして行けるのです』

「そんな事信じられないわ」

『本当ですよ。私が保証します』

「でも――」

『私の保証では信じられませんか?』

 神部は初めてフッと笑った。

『それでは私が石に代わって、今すぐあなたの願いを叶えてあげますよ。そうしたら、この計画に協力して下さいますね?』

「えっ?」

 相手がいったい何を言おうとしているのかが理解できず聞き返した秋江に、神部はもう一度繰り返した。

『叶えてあげますよ。御主人から解放されたいというあなたの願いを――』