突然伸びてきた手が、暗い闇に吸い込まれようとしていた落下傘を摘み上げた。

「よっ―― と。ナイスキャッチ!」

「響!」

「なんだよ、子供みたいにこんなもの欲しがって。そんなので海に落っこちたりしたら、洒落にならないぜ。ほらよ」

 ニッと笑って未央の顔の前に差し出す。

 未央はそれを受け取ると、大切そうに両手で握り締めた。

「響、ありがとう。おかげで――」

 言いかけて言葉を止める。

 それから顔を上げて響を見た。

「響さ、ピンチの時に助けに来てくれるヒーローみたいで格好良かった」

「なんか大げさじゃないか?落下傘ぐらいで。こんな物なら子供の時近所の奴らとマンションの上から落っことして遊んだから、いくらでも作ってやるぜ」

 響が微笑みながら頭を掻く。

「でも、ま、ヒーローって言われて悪い気はしないな。じゃあさ、これからは俺のことをスーパー響とでも呼んでくれ。いつでも助けに行ってやる―― ぜ……?」

 少し頬を染めていた響は、突然黙った。

 未央が急にしがみついて来たのだ。

「未央?どうしたんだよ?―― おい」

「ごめん響、ちょっとだけ……ちょっとだけこうしてて……」

 未央の肩を掴みかけた手を止める。

 それを真っ直ぐ下に伸ばすと、響はジャンバーの裾をギュッと掴んだ。

(泣いてる……のか?何故だ?そうだ、さっきの船……デッキに人影が見えた。男と女みたいだった。未央はそれをじっと見ていた。その事と関係があるのか?)

 そしてあの落下傘。

 あれは何処から来たのだろう?

 未央は、何故あんなに必死になって手に入れようとしたのだろう?

(―― そういえば重りの部分が妙に重たかった。だいいち何故こんな時間にこんな所へ未央は来たがったんだ?何だ………?未央、おまえいったい何を……俺の知らないところで何をしているんだ?)

 冷たい潮風の中で、響は口にできないいくつもの疑問を心の中で未央に投げ掛けていた。


…☆…