「未央」

「なに?」

「何かさ、喉が渇かねえ?」

「別に、乾かないよ」

「そうか……」

「だって、さっきオレンジジュース飲んだばっかりだもん」

「そうだな」

 未央は窓の外を見ている。

 響は狭い運転席でモジモジと動いた。

 中野大橋の上には、車がたくさん止まっていた。

 そのほとんどがカップルの乗った物で、見ていて心臓に悪い行動が目に付いて――

 響は、未央に対する気持ちを抑えられなくなるのではないかと気が気ではなかった。

(分かってるだろう?響。未央は千聖が好きなんだ。俺の事はいい友だちだと思ってるんだ。信用してるんだ。だから―― 我慢だ。何が何でも絶対、我慢だ)

「………フゥ」

 心の中で繰り返し、響は思わず溜め息をついた。

「どうしたの?溜め息なんかついちゃって」

「何でもねえ」

 目を合わせないように下を向く。

 未央の視線を感じて、ますます胸がドキドキする。

 響はもう空になっていたジュースの缶を手にすると、思い切ったように口を開いた。

「あのさ、未央。ちょっと寒いかも知れないけど、外に出ないか?」

「え?」

「だって俺、何だか息が詰まりそうで……このままこうしてると―― その……」

 膝に乗せた片手をギュッと握り締める。

「おまえに何かしそうで恐いんだよ!おまえが嫌だって泣いても、思いっ切り抵抗しても、強引に自分の気持ち押し付けそうで!だから!だから……外に出よう。外に……」

「響………」

 一気に捲し立てた響を見る。

 顔が真っ赤になっていた。

「分かった、そうしよう」

 未央は微笑むと、小さな声で答えた。

 それから「ごめん。気が付かなくて」と続けた。