「だったら話さなくてもいいよ。人にはそれぞれ事情がある。俺は別にそんな事知る気はないし、知ったところでどうしてやる事もできないからな。自分の事だけで精いっぱいさ」

 言葉を返しながら、千聖が自動販売機の前で車を停める。

「コーヒーでいいか?」

「あ……はい」

 未央が答えると、千聖はホットコーヒーを二個買って車に戻り、一つを未央に渡した。

 それからコーヒーを口に運びながら、両手で缶を包み込むようにした未央に目をやった。

「未央……ちゃん―― だっけ?」

「未央でいいです」

「じゃあ未央、家は何処だ?送って行くよ。―― そろそろ十二時だ。こんなに遅くなって家の人に叱られそうだな」

「家には誰もいないわ。私一人なの」

「え?」

 思わず聞き返す。

「ママは私が小さい時に病気で死んだわ。パパは一等航海士で世界中を回ってるから、年に何日かしか帰って来ないし」

「そうか―― ごめん。悪いこと訊いちゃったな」

「いいです別に。もう慣れてるから」