「―― 怪我はないか?」

 港を後にして湾岸道路に戻ると、千聖が声を掛けた。

 未央はシートに深く腰掛けて、静かに座っている。

 さっきまでとは別人のように大人しくなり、まるで借りてきた猫だ。

「どうした?」

「なんだか力が抜けちゃって……。車ごと海におっこっちゃったかと思った」

 返ってきた答えに千聖がフッと笑う。

 自分の運転の腕前を知らないのだから、そう思われて当然だった。

「俺に任せろって言っただろ?」

「うん―― 任せて良かった」

 未央はそう答えると、やっと微笑んだ。

 それから思い出したように言葉を続けた。

「助けてくれてありがとう。それと、車―― ごめんなさい。私のせいでこんなになっちゃって」

「もういいよ、成り行きだ。仕方ないさ」

「でも、大切にしてたんでしょ?」

「まあな」

「風通し良くなっちゃったね」

「確かにな」