「この建物は中世ヨーロッパの城を模して造られているんだ。天井を見てみろ。無数の小さな穴が開いているだろう?なんの穴だと思う?」

「なんの穴って――」

 問われて見上げてみる。

 確かに天井には無数の穴が開いていた。

 それは天井全体にあり、まるで模様のように見えた。

「あんた何にも知らないんだな」

 コメットは呆れて肩を竦めた。

「それじゃあ教えてやろう。もしもその絵を少しでも動かしたら、直後に天井の穴からちょうどボーガンの矢のような金属の棒が部屋中に降って来るようになっているんだ。つまりそこに居た奴は裁縫箱のピンクッションのようになっちまうのさ。にしても、盗賊避けのトラップまで忠実に再現したなんて、最初の持ち主はそうとうな凝り性だったとみえる」

「そんな……」

「嘘だと思うならやってみればいい。ただし、俺がここから消えてからにしてくれ。巻き添えを食うのはゴメンだからな」

 未央は唇を噛んだ。

 コメットの言う事を全て信じた訳では無かったが、全て嘘とも思えなかった。

 気に入った絵を、なんの防犯システムも付けずにただ飾っておくとは思えなかったからだ。

 ずっと捜し求めていた絵が目の前にある。

 なのに、手を触れる事さえ出来ないなんて。

「その仕掛けを解除する事は出来ないの?教えて。あなたなら知っているでしょう?私、どうしても、どうしてもこの絵を手に入れたいの。だってこの絵は――!」

「あんたが両親に愛されていたという証だから」

 未央はコメットの言葉に眉を顰めた。

「どうしてそんな事……」

「この絵とタイトルを見れば、そしてあんたのさっきの言葉を併せて考えれば誰だって分かる事だ。この女性はあんたの母親。そして胸に抱かれて幸せそうに眠っている赤ん坊は―― あんただ」

 途端に未央の目から涙が溢れた。

 こんな所で泣きたくはなかった。

 だけど――