「しかし―― マジで驚いたよ」

 リトルにドライヤーをかけて自分も濡れた服を着替え、未央がソファーに腰掛けると、向かい側に座った千聖が待っていたように口を開いた。

「ごめんなさい」

 小さくなって丁寧に頭を下げる。

「人がせっかくいい気持ちで眠ってるのに、急にのし掛かって来るんだもんな。一瞬あんたが襲い掛かって来たのかと思ったよ」

「そ、そんな事しないわよ!なんで私が――」

「だってその少し前、俺の寝顔をじっと見てただろう?」

「えっ……?」

 千聖は、絶句して真っ赤になった未央をチラリと見て笑った。

「ま、俺の方はそれでも構わないけど」

 それから手にしていた煙草に火を付けた。

 未央は耳まで真っ赤になったまま話しを戻した。

「それより、どうして死んだふりなんかしたの?ビックリしたんだから」

「別に死んだふりなんかしていない。あいつが怒っている訳じゃ無いと分かったから、抵抗するのを止めただけだ」

 千聖は立ち上がり、未央に見えないように背を向けてからニヤッと笑った。

「嘘つき!千聖の馬鹿!心配したのに!」

 未央の罵声を背中に浴びながら、そのままキッチンへ向かう。

 コーヒーを手にして戻って来ると、千聖はソファーに座った。

「さて……犬の話しを始めてくれ」

 未央は少し不機嫌そうな顔をしたまま肯いた。

「リトルは友達の犬なの」

「リトル?このでかいのがか?」

「え………?そうよ。だってゴールデンリトルバーだからでしょ?」

「レトリバーだ」

「あれ?そうだっけ?レトリバー、リトルバー、リトリバー、リトレバー……あれ?」

 千聖は額に手を当てて、首を横に振った。

 未央はニコニコしながら、隣に座っているリトルのフワフワの身体に頬を当てている。

「それで?」