「そうじゃない」

「だったらまた出て行けって言われたのか?俺はその方がいいと思うけど」

「うぅん。居てもいいって言ってくれた。キッチンや洗濯機なんかも好きに使っていいって」

「なら、どうしてそんな淋しそうな顔してるんだよ」

 問われて未央は複雑な笑顔を見せた。

 自分に対する響の気持ちが分かっているだけに、千聖のことを話すのは少し気が引けたのだ。

 響はそんな未央の気持ちを察したのか「構わないから言ってみろよ」と続けた。

 じゃあ……と前置きして未央は重い口を開いた。

「千聖ね、全然心を開いてくれないの。相変わらず『俺には構うな』って」

「だったら放っておけばいいじゃないか。あいつ一人で居るのが好きなんだよ」

「本当にそう思う?一人で居るのが好きだって思う?」

「―― そうじゃないのかなぁ」

 響は腕を組んで首を捻った。

「でもこのあいだ響が部屋に来て話しした時、楽しそうだったよ。響の事を揶揄ったり、響の小さい頃の話しして笑ってた。私と目を合わせてもニコニコしてた。本当に一人で居るのが好きなら、人が訪ねて来たときあんな顔するかな?」

 未央の言葉に響もあの日の事を思い出してみる。

 確かに本当に一人で居るのが好きなら、あんなふうに話しをしたり笑ったりはしないかもしれない。

 きっと知らん顔して自分の部屋に入ってしまったはずだ。

 だけど――

「なあ、未央。もうあいつのこと諦めて家に戻れよ。助けてもらったからって、淋しそうだからって、そんな理由で何もおまえが傍に居ること無いじゃん。おまえはあいつの兄妹でも親戚でも何でも無いんだから。おまえが一人で居るの淋しいんなら、俺が毎日おまえの家へ行ってやるから、だから――!」

 思わず未央の肩を掴む。

 その時、突然上の方で人の気配がした。

「オホン――!」

 驚いて見上げる。

 顔を覗かせたのは久乃だ。

「久乃――」

 途端に響は未央から手を離して、その場から飛び退いた。