いくら探してもどこにも無くて、私はその場に座り込んだ。


ただ呆然と、何も考えず。


しばらくそうしていたけれど、ゆっくり立ち上がる。


また泣きそうになって、我慢しなくちゃと上を向いた。


その時、美術室のドアが開く音がした。


びっくりして体が震えてしまった。


芦屋先生が美術室へ戻ってきたところだった。


先生は私の姿に気付いて、とても驚いた表情をしていた。


「どうしたの?こんなところで」


「あ、あの……」


答えようとした自分の声が、上ずって震える。


「落とし物を探してただけです」


素早くそれだけ言って、カバンを手に立ち去ろうとした。


「吉澤さん」


と、先生の声が聞こえた。


瞬間、もう「萩」とは呼んでくれないんだと悲しくなった。


「怪我は大丈夫?体の方は?」


心配そうな先生の顔を、私はこれ以上見ることが出来なかった。