「原因は……やっぱり失恋なの?」


若菜がおそるおそる私に尋ねてくる。


「う〜ん、自分でもよく分かんないや」


なるべく明るい声で答えたつもりが、そのせいで余計に2人の心配を増長させてしまったようだった。


特に澪は事情を知っているだけに、少し目を潤ませていた。


時計を見るとすでに放課後になっていた。


「2人とも、ごめんね。私のせいで残らせちゃって。少し寝てから帰るから、今日はもう大丈夫」


私がそのように言ったからか、2人は顔を見合わせてうなずくと立ち上がった。


そこで、若菜がふと思い出したようにこちらを振り返ってきた。


「そういえば、あとで真司くんにお礼言っておいた方がいいよ」


「え?真司に?」


私が目を丸くして首をかしげていると、若菜はニッコリ笑った。


「美術室で萩が倒れた時に、ピューンって飛んできてね。俺が運びます、って。かっこよかったよ」


そうか。
真司がここまで私を運んでくれたのか。


重かったんじゃないかと一瞬恥ずかしい気持ちになる。


「倉本くんが萩のこと好きって、クラス中で噂になっちゃってるよ」


若菜の口調は楽しそうだったけれど、私はそれに関しては笑えなかった。


まさか、ね。
と自分に言い聞かせる。


きっと真司は、私と芦屋先生の間に何かがあったということを察してくれていて、それで名乗り出てくれただけに過ぎない。


そう思いたかった。