「徳山先生に言われただろ?1人で帰るなって。友達を誘えばよかったじゃないか」


芦屋先生が怒っていたのはさっきの一瞬だけで、すぐにいつもの冷静な先生に戻っていた。


でも、笑いかけてくれるということはしてくれなかった。


そして、芦屋先生が何故ここに来たのかが分かった。


徳山先生が知らせたのだ。


きっと朝、私が「1人で大丈夫」と言ってしまったから、心配で芦屋先生に相談したんだ。


「ご、ごめんなさい……」


私は今頃になって事の重大さを実感し、手が震えてきた。


先生がここに来てくれなかったら、私はどうなっていたのだろう。


倒れたままの澪の元彼の男の人は、起きる気配もない。


「怪我は?」


芦屋先生はしゃがみ込んで私の顔をのぞき込んできた。


とても心配したような顔だった。


あの人に掴まれた腕や、足が少しだけ痛かったけれど大事には至らない。


「大丈夫です」


私は答えてから、もう一度


「ごめんなさい……」


と謝った。


途端に涙が出そうになって、グッと堪らえる。


すると、先生の大きな手が伸びてきて私の体に回された。