やがて菊ちゃんは何かを思い出したように、ハッと息を飲んだ。


「あ、でも今日の放課後、私たぶん萩と帰れないや。親が迎えに来て、そのままご飯食べに行くことになったからさ」


「そうなの?全然かまわないよ。いいなぁ、ご飯」


私がうらやましくなってそんなことを言っていたら、険しい顔で菊ちゃんに注意された。


「ダメだよ、萩。昨日のことで澪ちゃんの元彼に顔見られたんでしょ?1人で帰るの危ないよ」


「あの人、私のことなんて眼中に無いもん。考えすぎだよ、菊ちゃん」


「あ、そうだ。真司に一緒に帰ってもらったら?」


菊ちゃんの突拍子もない提案を、私は「本当に平気だから」と丁重にお断りした。


それでも納得がいかない菊ちゃんは、


「この際、芦屋先生に相談しようよ」


と私を焦らせるようなことまで言い出した。


「な、何言ってるの!先生だって困るでしょ。冗談やめてよ」


「本気なんですけどぉ」


不満げに菊ちゃんが睨んできたけれど、私は笑ってその場をしのいだ。