「その元彼がまた最近、澪のそばをうろつき始めている」
先生はここでようやく、いつもの無表情な顔ではなく人間らしい憂いがかった目で私を見てきた。
「君も部活で忙しいとは思うんだが冬休みまでのあと1週間、澪と一緒に帰ってやってくれないかな。駅までの道だけでもかまわないから」
端正な顔立ちに見とれるかと思いきや、そんなことを考えている余裕はない深刻な内容で私は戸惑ってしまった。
「私なんかで力になれるかどうか……」
「元彼は澪が1人で帰っている時に必ず現れているようなんだ。私も仕事が忙しくてここ最近は毎日遅くてね」
う……、と私は口をつぐむ。
断れるわけがない。
こんな徳山先生は見たことない。
とてもとても困っているというのが強く伝わってきて、それと同時に澪を想う気持ちも伝わってきた。